2003年3月2日 公開
2003年3月16日 加筆しました。
3月17日訂正。
★脳腫瘍について ☆脳腫瘍 脳腫瘍とは頭蓋内に発生する腫瘍の総称です。癌との類似点はあっても 脳には癌の発生の元になる上皮がないので脳癌とは呼ばれません。 脳腫瘍はどの年令にも発生しますが、脳腫瘍といっても様々な種類があり、各腫瘍ごとに発生する年令に違いがあります。 小児脳腫瘍は悪性腫瘍の中では白血病に次いで頻度の高い腫瘍で、大人の脳腫瘍は30代〜40代に好発します。 ☆症状 脳腫瘍の症状は発生部位ごとに症状が違ってきます。一般的には頭痛、嘔吐 体のバランスがとれずにふらつく、などの症状が現れます。 腫瘍に共通した性質として、次第に大きくなるのでそれに伴って症状も進行悪化していくという特徴がみられます。 ☆診断 現在ではCTスキャン、MRI検査で容易に診断が出来るようになりました。 問題なのは腫瘍が小さい時には症状を出さないので早期発見が困難な事です。 従って、何かの症状が治らないで進む一方の時に脳腫瘍を疑ってみる事は、早期診断上大切な事です。 ☆治療 各症例によって異なりますが、脳腫瘍全体の約3割を占める頻度で発生する神経膠腫(グリオーマ)の例で述べますと、 手術と術後放射線治療の初期治療そして場合によっては再発防止のため定期的な化学療法を行います。 早期に発見し、種々の治療法を総合して行う治療(集学的治療)で、治療成積は向上しつつあります。 ★小児の脳腫瘍 小児に発生する悪性腫瘍の頻度は、第1位が白血病で脳腫瘍が第2位を占めています。 子供の脳腫瘍は成人の脳腫瘍と比べて種々の点で違いが認められます。 ☆ 種類 頭蓋咽頭腫、奇形腫など先天性腫瘍が多いことは当然ですが、神経膠腫(グリオーマ)が約70%と非常に多くなっています。 神経膠腫の分類のひとつである星細胞腫(アストロサイトーマ)が多く、視神経に出来る神経膠腫はほとんどが小児に発生します。 小児に特有な腫瘍である髄芽腫のような悪性腫瘍、橋グリオーマ、上衣腫のように悪性に準ずるものが多いです。 唯一の例外は小脳に好発する星細胞腫で、手術により完全に治癒させることが出来ます。 成人に多い転移性脳腫瘍、髄膜腫、下垂体腺腫、聴神経鞘腫などは子供にはほとんどみられません。 小児の脳腫瘍は風邪、予防接種、軽い頭部外傷などを契機に発症することがあり、 なかには急激な経過をとることもあります。 ☆ 症状 小児の脳腫瘍は早期から脳脊髄液の流れを阻害して水頭症となり頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔吐など)を呈します 小児の頭は発育途上にあるため、頭蓋内圧亢進症状をきたすと頭を大きくして圧力を減少させようとし、 成人に比べて症状が出現しにくいという特徴がみられます。 従って頭蓋内圧亢進のときによくみられる頭痛、嘔吐などは遅れて出ることが多く、年少児では頭痛を訴えることが出来ないので、 嘔吐が初期症状となる事が多いです。 頭痛は早朝時に強く、嘔吐は嘔気を伴わずに突然起こり(噴出性嘔吐)嘔吐の後にはケロリとするのが特徴です。
☆ 治療 小児の脳腫瘍の約70%を占める割合で発生する神経膠腫(グリオーマ)は境界がはっきりしないので、 腫瘍を根治的に摘出することが困難なことが多いです。 手術により根治できないものも、手術によってできるだけ腫瘍を摘出し術後に放射線治療、 化学療法などを併用する事により、その治療成績が向上しつつあります。 ★ジュンの脳腫瘍について ジュンの病気について説明します。ジュンの腫瘍の名前は「星細胞腫」astrocytoma(アストロサイトーマ)といいます。 正式な病名は「視床下部 毛様細胞性 星細胞腫」(hypothalamuic pilocytic astrocytoma)といいます。 ☆ 神経膠腫と星細胞腫(glioma,astrocytoma) 脳は神経細胞とグリア細胞から出来ています。脳を構成するこれらの細胞のうち主役となるのは神経細胞です。 目や鼻、皮膚などの感覚器官から入ってきた情報を受け取り処理します。また情報処理には直接かかわりませんが、 その伝達がきちんと行われるように様々な形で神経細胞をサポートしているのがグリア細胞です。 そのグリア細胞がなんらかの形で腫瘍化したものをグリオーマ(神経膠腫)といいます。 神経膠腫は脳腫瘍全体の約3割を占め、最も頻度の高い脳腫瘍です。神経膠腫もいくつかに分類されますが、 星細胞腫はその中の一つです。星細胞腫はグリオーマ中最も多い腫瘍で悪性度は比較的低く大人の大脳半球、 子供の小脳半球に好発します。脳幹、視神経にも発生します。 ☆ 毛様細胞性 星細胞腫(pilocytic astrocytoma) 星細胞腫は組織学的にいくつかに分類されます。Pilocyticとは髪の毛のようなという意味で、細長い形をしています。 ☆ 視床下部 脳幹部の一つで、脳のほぼ中心部に位置していて、生命の中枢センターと呼ばれています。 人の意思と関係なく活動している、心臓や腸などの内臓の働きや、血圧、体温、水分の調節を支配している自律神経の働きを、 さらに支配するのが視床下部です。そして体の恒常性を保つために、必要なホルモンを出している脳下垂体に指令を出したり、 その他に感情や記憶も司ります。また視床下部には視交叉というところがあります。 人間は右目から入った情報は左脳で認識し、左目から入った情報は右脳で認識します。 つまり視神経は交叉しているのです。ジュンの腫瘍はこの視神経が交叉しているところの、少し後ろの部分にあります。 ★ジュンの障害について 頭の中に腫瘍が発生するという病気で脳の神経が圧迫され、様々な症状が現れました。 また病気で受けた治療、手術によってもその後遺症が発生しました。その事について述べてみたいと思います。 ☆ るいそう、ラッセル症候群 最初に現れたのがこの症状でした。保健所の生後4ヶ月検診では太鼓判だったのですが、それ以降どんどん痩せてきました。 1歳の誕生日の頃にはまるで難民の子のように痩せていました。それがこの病気と判明して原因がわかりました。 「ラッセル症候群」といって体の代謝が異常に亢進して脂肪が体につかない状態になっていたのです。 Dr.達の懸命の治療により今は完治しています。 ☆ 摂食障害 1994年12月に入院してすぐこの状態になりました。まだ検査中でこの病気とわかる前からです。 やがてジュンの病気は脳腫瘍であるとわかりましたが、この頃にはすでに深刻な状態になっていました。 その後本来の病気治療以前に、この事が最大の障害として私達の前に立ちふさがっていく事になります。 食べても吐いてしまい、必要な栄養を自分の口から摂れなくなってしまったのです。 そのため中心静脈栄養といって鎖骨の下のところから管を入れ、24時間の点滴で栄養を補給していました。 鼻から胃まで管を入れて経管栄養を試した時期もありましたが、栄養を入れてもただ吐くだけでうまくいかず、点滴に戻されました。 1年8ヶ月の入院の後1996年7月に退院する時も、まだ自分で栄養を摂る事が出来なかったため、体に管を入れたまま退院し、 家に点滴棒を準備して母親の私が点滴をつないでいました。病院では24時間でおとす点滴ですが、 自宅での生活がそれでは不便なので午後9時〜午前10時まで時間を調整しておとし、日中動けるようにしていました。 退院後は家で夜、点滴をしながらも日中はなるべく体力をつけるため外に出て歩いたり、 生活にリズムを持たせたり、食生活も工夫したりしました。 そして除々に自分の口から食べられるようになり、退院してからちょうど1年後管を抜く事が出来ました。 2年8ヶ月もの間栄養点滴だけでジュンのように成長した子供は大変稀で、世界的にも珍しい症例だそうです。 みんなから「奇跡だね」と言われました。こうしてこの障害も克服する事が出来ました。 ☆水頭症 脳脊髄液の流れが何らかの原因で阻害され、頭蓋内に脳脊髄液が溜まって脳室が拡大した状態を水頭症といいます。 症状としては頭痛、嘔吐などですが、脳圧が高くなりすぎると突然意識がなくなったり、 呼吸が停止するなどの重篤な状態になることもあります。 ジュンは2001年8月に大きくなった腫瘍が、脳脊髄液が流れる通り道を塞ぎ 水頭症を起こしている事がMRI検査で認められました。 また頭痛やめまいなどの症状がひどくなってきていたので、緊急入院をしてシャント手術を受けました。 その後腫瘍摘出手術を受けた際に、腫瘍が小さくなればもうシャントは必要ないだろうという事で シャント管を抜きました。それからは放射線治療を受けたりしながら様子を見ていましたが 頭痛、嘔吐、ふらつきなどの症状は悪化する一方でした。 そのためDr.が再検討し脳圧を測る検査をしたところ数値が高かったので、 ジュンにはシャント手術が必要だと判断されました。2002年4月に再手術を受け、 今現在もジュンの頭の中にはシャント管が入っています。 |
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☆ 脳下垂体機能不全 今ジュンが抱えている障害で最も大きいものです。 下垂体、視床下部が障害されるとホルモンの分泌が障害されます。 発病してすぐの頃にもあったのですが、2001年9月に受けた腫瘍摘出手術によってさらに障害が大きくなりました。 内分泌障害の症状はいくつかありますがそれについて述べていきます。 ☆ 尿崩症 視床下部で生産され下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン、バソプレッシン。 このホルモンの分泌が悪いために起こります。 体の水分を調節するホルモンなのですが、多量の尿が出てしまうのでそのため脱水症状になり非常に喉が渇きます。 ホルモンを補う薬を使って多尿をふせぎ、水分の摂取量と排出量とのバランスをとります。 |
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☆ 各ホルモン障害 副腎皮質ホルモンの分泌量は、朝高く夜低いというリズムがありますがジュンにはこのリズムがありません。 そのため朝にホルモンを補う薬を服用しています。また人間の体はストレスがかかるとそれに抵抗しようとして、 この副腎皮質ホルモンの分泌が増えますが、ジュンはそういう時でもこのホルモンをつくりだす事が出来ません。 軽い風邪でも重篤になりやすいのです。甲状腺ホルモンは成長に関係します。これもホルモンを補う薬を服用しています。 ☆ 思春期早発症 ジュンの腫瘍がある視床下部には『体内時計』なる機能が備わっています。 一日のプログラムもそうですが、人が一生を送る上での様々なプログラムもここでコントロールされています。 女性であれば初潮を迎えやがて閉経してゆくプロセスもその一つです。 ジュンはここに腫瘍があるため『体内時計』がうまく機能しないことがあるのです。 ジュンは4歳の後半から男性ホルモンの値が少しずつ上昇して来たためホルモンを止める治療を受けていました。 身長の伸び具合を見ながら、約3年間治療を受け現在その治療は終了しています。 その後は治療をやめてもホルモンの値が急激に上昇することもなく、検査でのホルモンの値や身長の伸びに 気を配りながら自然のまま成長を見守っています。 ☆ 肥満 『るいそう』ではじまったジュンの病気が、今若干の『肥満』という状態にあるのは少し皮肉な気もします。 2001年9月の腫瘍摘出手術を受けてから、急激に体重が増えました。 それまでは病気のために代謝が亢進してしまい、太ることが出来なかったのですが、 それと逆の状態になっているのです。病気によって抑えられていたことが、 手術によって軽くなり一気に出てしまった状態なのだそうです。 肥満に伴い今はコレステロール値が高く、値を下げる薬を服用したほうが良いのですが、 その薬は成長に影響が出るということなので、今はこのまま中学生になるころまで 様子を見る予定です。 ☆ NUD(non ulcer dyspepsia)ノン・アルサー・ディスペプシア 直訳すると非潰瘍性消化不良となりますが、日本ではごく最近“機能性胃腸炎”という名で診断されるようになったようです。 少し前までは慢性胃腸炎と診断されていた病気です。潰瘍など器質的な異常がないのに機能的に異常を示し、 胸焼けや痛みなどの上腹部症状が続いて本人が日常生活でも不自由を感じたり不快な思いをしている、といったものをさします。 ジュンは2002年の夏に検査入院をしてこの病気だと診断されました。 闘病生活でのストレスなどが原因ではないか、という事です。症状を和らげる薬を内服しています。 ☆ その他の症状 耳・・化学療法をした時に使った『シスプラチン』という薬によって耳が少し聞こえづらくなりました。 特に周波数の高い音、例えば体温計の♪ピッピ♪という音などは聞き取る事が出来ません。 目・・誰にでも盲点と呼ばれる場所があります。ジュンはその範囲がすこし大きい ようです。しかし両目で補い合っているので日常生活で不自由な事はないようです。 ★ジュンの治療記録 ☆脳腫瘍に対する治療 化学療法 1995年3月〜9月 シスプラチン、ビンクリスチン 4回 1996年3月〜7月 シスプラチン、ビンクリスチン 4回 放射線治療 手術 |